大屋根リングとの出会い


大屋根リング

「これが大屋根リングか…」

私は期待と不安を胸に、フェンス越しにその木目をまじまじと眺めた。この超巨大な建造物を支える木材の、表情を窺おうとしたのだ。シミや汚れのようなものも、一つの味わいだ。縦横に整然と折り重なっている木材だが、容易に捉えられるものではないことを認識させてくれる。

少し時間をかけてでも、木材から何かを読み取りたくなった。立ち止まり、座り込み。目を開け、目を閉じ。息を吸い、息を吐き。あれやこれやと苦心する私。静かに佇む木材。私は、私の意識がその対照性に目を向けそうになった寸前に、木材について考えることをやめた。そうすることが何かの抗いになるかと思ったのだ。しかしそれは無力感からの逃避であることは明らかで、私は巨大な建築物の作る単純で複雑な世界に翻弄されているに過ぎなかった。

これ以上恥を重ねる前に、私は素直に畏敬の念を捧げることにしたのだが…

大屋根リング

大屋根リングの向こうに、ドーム状のパビリオンが見えた。全体としては半球のようだが、六角形の連なりでそれを構成している。ここからだと、素材のテクスチャーは見えない。全体としての半球と、部分としての六角形。そして、半球は楕円のそれであり、六角形は正六角形ではない。

「もう少し、考えてみたらどう?」

ドーム状のパビリオンからの声が聞こえてくるかのようだった。万博会場は広く、多様である。私は木目から大屋根リングを探ろうとしたが、継ぎ目から探ることも、補強材から探ることも、ライトから探ることもできる。木材ひとつを紐解けないとしても、それも正しい答えへの一歩かもしれない。

私は木目を背にして、リングの内部に目を向けた。視界にない筈の木目が、もっと良く見えるように感じた。

大屋根リング内部の方


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